【中学受験】聖光学院の算数をどう攻略するか

聖光学院の受験対策

聖光学院といえば、神奈川御三家という地位にとどまらず、全国有数の東大合格校(2023年合格者数78名で全国5位)として不動の地位を占める進学校になりました。かつては「天才系の栄光学園に落ちていくところ」的な神奈川ナンバー2の存在と見る向きもありましたが、もはや押しも押されぬ超超トップ校です。

この聖光学院の入試の特徴ですが、ひと言で言うと「中学受験に強いお子さんよりも、大学受験に強い(耐えられる)お子さんを求めている」という印象です。それでは以下、出題傾向について概観します。

  1. 算数

(出題の特徴)

まず算数ですが、はっきりした特徴があります。それは、以下の分野の問題が毎年出題されていることです。出題傾向に一貫性があるということは、「こういった問題で点数が取れる子は、大学受験でもしっかりと結果を出せる」という相関をはっきりと認識しているからだと思います。

具体的に言うと、例えば、消去算を使いこなせないと中学・高校で方程式を使いこなせませんし、図形や立体の移動の問題に強くないと国公立の理系や医学部には受かりません。

また、「確率・統計ができる人は本当に数学ができる人」と言われますので、場合の数は、付け焼き刃でない算数の本当の力を知る出題素材としてうってつけと言えます。数の性質に関しては「ひらめきやセンスが必要」と思われるかもしれませんが、強靭な忍耐力と事務処理能力も問われます。

毎年、聖光学院の算数の問題を見ていると「これって大学の入試問題では?」という錯覚にとらわれることがあります。

(特に対策を練りたい分野)

 2019202020212022
 1日2日1日2日1日2日1日2日
数の性質 
場合の数    
点や図形、立体の移動   
旅人算 
消去算が必要な問題  

※旅人算には通過算と流水算も含めています。

  • 対策
  • 一定水準以上の消去算のテクニックを極力早めにマスターする

例えば、「りんごが2個とバナナが3個で600円」という問題で、5、6年生になっても「り×2+バ×3=600」と書いて処理するお子さんがいますが、これでは「バナナは全て30円値下げになり」とか「果物のそれぞれに消費税10パーセントが取られ」といった設定が追加されると処理も煩雑になり時間がかかってしまいます。何より複雑な設定の消去算に太刀打ちできません。4年の段階で「②+3=600」という表記での処理をマスターしておく必要があります。なお、灘中にたくさんの合格実績を出している関西のある塾では、この処理能力の獲得を意識した算数のテキスト作りをしていたりします。

  • 直感や「ひらめき」の獲得を目指す前に、典型的なパターンの問題を5年生までに

マスターすること。

中学受験の算数の出題がもし、直感力や「ひらめき」、センスといったものだけを要求していたら、毎年合格点の到達者が数人になってしまいます。本当に高度な問題というのは、「既存の標準的な問題の要素が複数組み合わされたもの」と言えます。聖光学院では特にその傾向が顕著で、自己流の解法やひらめきで立ち向かっていると、たちまち時間切れになってしまう問題ばかりです。5年生までに「四科のまとめ算数」(四谷大塚)をマスターし、6年生になっても「ステップアップ演習」や「プラスワン問題集」(いずれも東京出版)などの良質な典型問題を網羅的にセレクトしたテキストをマスターしつつ、入試レベルの高度な問題に取り組みたいものです。

  • 聖光学院レベルの類題をかき集める

「四科のまとめ算数」や「ステップアップ演習」「プラスワン問題集」といった標準的なテキストで典型的な問題をしっかりマスターした後は、聖光学院レベルの類題にたくさん取り組む必要があります。例えば、旅人算などは、聖光の場合、「聖くん、光くん、学くん」の3人が登場してダイヤグラムを活用して解くものが頻繁に出ますが、これなどはまとまった数を解かないと太刀打ちできません。しかし、この「3人が出てきて&ダイヤグラムで解く」という要素を備えた問題は、意識的に集めないと集まりません。「立体の切断の問題」や「立体の移動の問題」しかりです。そのネタとしては、塾の志望校別講座で聖光学院用として配布されるプリントや、「チャレンジ演習」(東京出版)という良問かつ難問の問題だけを集めたものを活用する必要があります。聖光学院の模試も他塾の実施するものも受けてみると良いでしょう。

(4)「数え出し力」をつける

決まった解き方を応用しようとしても無理な場合は、時間切れに注意しながら答えに複数の数字を当てはめてみていくことが必要になります。ただ、むやみに当てはめても答えは導き出せないので、「大体このくらいの数だろう」という「あたり」をつけて答えに当てはめていくことになるのですが、普段から数字を答えに当てはめるトレーニングを積んでいないと、当てはめの途中で思わぬミスをしたり、答えが出る寸前で解答を出すのを諦めてしまうことになります。

普段から、数え出しが必要な問題には積極に取り組み、「数え出し力」を十分鍛えておきましょう。

(5)小問同士の関連性を見抜く訓練を

聖光では、それぞれの問題を自分の才覚だけで解く「天才系」「才能系」のお子さんの多くが算数が原因で涙を飲んでいます。それは例えば、同じ大問内の(1)や(2)、(3)の問題に関連性があり、(1)の設問や解き方が(2)の解法に、(2)出題や解き方が(3)の解法に関連することが多く、それを見抜けなかった受験生は、問題を解けるか解けないかが、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」的な、行き当たりばったりの解き方になってしまい。それぞれの小問をタコツボ的に、虫食い的にしか解けず、結局まとまった得点を得られてないからです。

具体的に言うと、ある幾何の問題で、(1)の平面図形の移動の問題が、(2)の立体の移動の問題に大いに関連している、ということがありました。そしてこのような関連性は、聖光の問題出題者によって常に意識されている印象です。

ですので、模試でも塾での勉強でも、各小問の関連性を普段から意識して解く姿勢を心がけたいものです。

(6)聖光対策にお勧めな参考書

まずは、5年生の間に「4科のまとめ算数」(四谷大塚)は完璧にマスターしたいところです。その次に、6年の夏休み前までに「ステップアップ演習」「プラスワン問題集」(いずれも東京出版)、そして夏休みからは過去問と並行して「チャレンジ演習」(東京出版)を解くことをお勧めします。「チャレンジ演習」は聖光の過去問の類題の宝庫です。

  • 国語

国語も算数と同様、聖光学院には一定のはっきりとした傾向があります。大問の1と2で漢字・語彙、そして大問の3と4で、読解が出題されますが、この読解に特徴があります。

読解は、ほぼ毎年「物語文」と「説明文やエッセイなどの散文」がペアで出題されます。そしてその内容は以下の表のような傾向になっています。

【国語の出題の傾向】

  2019202020212022
  1日2日1日2日1日2日1日2日
  物語恋愛       
学園物      
家族物      
キャリアと人生     
 
      説明文民俗学       
思想・哲学     
サイエンス       
歴史学       
文化人類学       
音楽論       

(1)読解対策(物語文)

表からわかる通り、物語は「学園もの」「家族もの」「職場もの」「(学生同士の)恋愛もの」がローテーション的に出題されている印象です。そして文章のスタイルとしては、学校によって、

A:芥川賞などの文学賞受賞者の古い作品(例えば渋幕など)

B:芥川賞などの文学賞受賞者の新しい作品(例えば渋渋など)

C:文学賞に関係のない、児童文学作品やライトノベル的なもの

に分かれますが、聖光の場合、どちらかと言えばCに近く読みやすい印象です。

ですので、物語文の対策としては、このCに近い文章を出す学校の問題を多く解くのは有効だと思われます、また日頃からこのCに近いタッチのもので、「学園もの」「家族もの」「職場もの」「(学生同士の)恋愛もの」を読み分けて読書することも必要です。

具体的には、恩田陸や村上春樹などの人気作家の短編を「スクール編」「恋愛編」「日常編」などシチュエーションごとに分けて編集したアンソロジーの「君が見つける物語」(角川文庫・全4巻)などに親しんでおくことをお勧めします。

(2)説明文やエッセイなどの散文対策

次に、説明文やエッセイなどの散文系ですが、「生き物の生態」や「自然の仕組み」「国際社会の具体的な問題」といった、「コテコテの論説文」というよりは、「日々の生活をどう生きるか」

「人生にとって面白さとは何か」「人間は自然や動物とどう接するべきか」「脳は自分をどう認識しているか」といった話題を、純粋に科学的に突き詰めるのではなく、社会哲学的に「はて、どうしてやろか」と少しゆるく、少し自由に思索するものが多く出ています。

これらの文章を読みこなすには、ある程度の精神年齢があり、普段から自分の年齢より2歳以上、上の年齢の人間が読みこなす文章に親しんでいないと、なかなか文章の真意が読み取れないものばかりです。

そして、「自分とは何か」「自分にとって社会とは何か」「自分にとって幸せとは」「自分と友人、自分と家族といった人間関係とは?」などの「自分がらみのテーマ」に関して自問する機会を与えてくれる文章に普段から親しんでおく必要があります。

具体的には、ちくま「プリモ新書」や「岩波ジュニア新書」、インフォビジュアル研究所の「14歳からのシリーズ」、朝日新聞社の月刊「今とき教室」などに親しんでおく必要があります。

・「友人とは」「人生とは」といった哲学的テーマに関するわかりやすいエッセイ

→池田晶子「14歳からの哲学」

→菅野仁「ともだち幻想・人と人とのつながりを考える」

・匿名で発信したり、コスプレでSNSで発信したりできるインターネット社会において「自

分」とは何かを考える論考

→榎本博明「自分らしさってなんだろう」ちくまプリモ新書 ※この著者はよく出ます

・社会と自分との関わり合いについて考える

 →松村圭一郎「うしろめたさの人類学」 ※入試や模試でよく出題された作品です

 →森真一「本当は怖いやさしさ社会」

・日常の自分の生き方について考える

→三宮麻由子「人生を幸福で満たす20の方法」

・仕事について考える

→森博嗣「やりがいある仕事という幻想」  ※森博嗣は過去に聖光で出題されています

→山口絵里子「裸でも生きる」

・芸術論

→千住博「ルノワールは無邪気に微笑む」 

※著名な画家ですが、一般学生向けに芸術の本を多く出しており、大手塾での読解の教材

としても使用されています。

といったものには親しんでおきたいものです。

(3)記述は「20字以内」と「60字以内」がほぼ毎年出題

記述ですが、物語系では「20字以内」が、物語以外の散文系では「60字以内」の記述問題が、ほぼ毎年出ます(時々40字以内の問題も)。ですので、この「20字以内」「60字以内」の記述は日頃から鍛えるに越したことはありません。具体的には、先に述べたような素材を扱った読解問題で、「20字以内」「60字以内」の記述問題が入っているものを集めてどんどん解いておくべきですが、そういった問題が手に入らないときは、

・ある記述問題の解答を「20字」で書いてみたり「60字」で書いてみたりする

・読んだ本の要約や感想を「20字」で書いてみたり「60字」で書いてみたりする

というのをお勧めします。記述は算数の問題を解くのと同様、やらないと鈍ります。

3.理科

理科はほぼ毎年

大問1:生物(人体や他の生物も出るが、植物も多い)

大問2:地学(天体系が多い)

大問3:化学(水溶液の性質などが多い)

大問4:物理(光学や力学が多い)

の構成で出題されています。

大問1の生物(植物が多い)に関しては、「あらかじめ準備しておいた者勝ち」というくらい設問の数にボリュームがあります。

生物に限らず、地学、化学も考える問題だけでなく、知っているかどうかを問う「知識問題」も多く出ます。ですので、Sapixに通われている方でしたら、理科のデイリーサポートの表紙裏のカラーの知識系トピックや、ポイントチェックのページの裏にある知識ネタは必ずチェックし、知らなかったものはページごとファイリングするかノートにまとめておきましょう。

それ以外の塾に通われている方は、

・Z会の中学受験に出る図鑑シリーズ(植物・動物・天体)

・コアプラス理科(サピックス)

・教養のための理科(全4冊・啓明館)

・小学生のための理科便覧(浜島書店)

あたりは必ず何度もチェックしておきたいところです。また、「パンのベーキングパウダーの性質は?」といった、日常生活にからめた科学知識を問う問題が出題されます。これは「雑巾の生臭さを除去するには?」といった生活科学的な出題を行う他の有名私立(慶應中等部など)

に通じるものがあり、日頃から塾のテキストや模試、いわゆる電話帳(主要な学校の入試問題を集めたもの))などをチェックして収集・整理しておきたいものです。

次に、大問4で出題される物理系の問題は、かなり紙面を割く大掛かりなスケールのものが出現されます。この手のものは、なかなか市販の参考書や問題集から集めるだけでは不十分なので、各団体の主催する模試や、日能研やSapixなどから刊行されるいわゆる「電話帳(主要な学校の入試問題を集めたもの)」をチェックし、週末などの時間があるときにじっくり取り組む必要があります。

4.社会

社会も例年、大問の構成にある程度決まったパターンがあります。

具体的には、

大問1:各年代の事柄を横断的に尋ねる歴史の総合問題

大問2、3

①国の統治・人権に絡めた憲法・法律問題、②核問題や環境問題などの国際問題や

 時事問題

※①は実際の憲法や法令の条文もよく出ます

大問4

ある地域の農業、工業、成り立ち、経済問題などを総合的・地政学的に分析する問題

※写真、グラフなどの資料を豊富に交えたものが出ます。

という構成です。

大問1の「横断的な年代の歴史問題」は、市販の参考書や通常レベルのテキストではなかなかお目にかかれないスケールの構成なので、模試や過去問などでたくさん取り組んでおく必要があります。

大問2の「①国の統治・人権に絡めた憲法・法律問題、②核問題や環境問題などの国際問題や

 時事問題」に関しては以下の対策が必要です。

・朝日小学生新聞、今とき国語教室、サピックスの時事対策テキスト(毎年市販)などに常に

接しておく

・年代に関して言えば、「核軍縮をめぐる世界の条約動き」「環境対策の立法や国際会議」「労働

者の人権に関する立法」「女性や人種に関する権利保護の推進」など、テーマを決めた年表を

作ってみること

そして、大問4の「ある地域の農業、工業、成り立ち、経済問題などを総合的・地政学的に分析する問題」に関しては、渋渋などの上位校も、同じようなタイプの大掛かりな問題を出題してますので、過去問の分析に加えて、いわゆる「電話帳(各学校の過去問を集めた問題集)」で似たような類題を収集しておくのは必須になってきます。なお、この大問4に関しては、既存の知識に加えて、未知の問題を自分なりに分析し。推論する力も問われますので、余裕のある方は、サピックスオープンのBタイプの問題を解いてみたり、公立中高一貫校向け適性問題集の社会系の問題に触れておくのも良いでしょう。また、くもんから市販されている「ぐーんと強くなる社会(4・5・6年、全3冊)は、知識をチェックする問題と、資料を使ってしっかり考えさせる問題のバランスが優れており、大変有用です。

また、記述ですが、「2行で答えよ」というのと「40字〜60字で答えよ」というのが、国語と同様、毎年のように出題されます。このため、

・20字程度の記述問題は、問題と解答をいろいろなリソースから予め収集しておき、典型的

な問題に関しては、想定問答のようにまとまった量を覚えてしまう

・「40字〜60字で答えよ」の問題に対しては「中学受験・記述P R O」(数件出版)のよう

な地図や資料を分析したり読み解いたりする記述問題が数多く載っているテキストにしっ

かりと取り組むことが必要になってきます。

また、4、5年時で聖光受験を考えているお子さんは、くもんの「社会がぐーんと強くなる」

(4、5、6年)などは、資料を見ながら自分の知識と分析力を組み合わせて解答する総合型の問題に対応した設問も入っているため、お勧めです。

                     【聖光対策のまとめ】

(全科目を通じた出題傾向のまとめ)

聖光学院は、「思考力だけある人間」も「知識だけある人間」のどちらも求めていない。

しかるべきレベルの大学受験で通用する、知識と思考力をバランスよく備えた「総合力」のある人間を、あの手この手の出題で判定しようとしている。問題のタイプとしては、中学受験というよりも、国立大学の入試問題に近い印象。勤勉で精神年齢が高めで、今、政治的な話題かサイエンス的な話題のどちらかに偏らず、世の中で起こっていることにバランスよく関心を持っているお子さんを求めている。そしてどの科目にも出題傾向に一貫性がある。付言すれば、

だからこそ、昨今の快進撃的な大学合格実績の伸長があると思われる。