【家庭教師派遣会社の倒産に寄せて】お金よりも大切なものを取り戻した母親の話

以前、こんな女性がいました。若い頃の男性遍歴が元でシングルマザーに。親類の家を転々としながらなんとか娘を育て上げましたが、娘が大きくなるにつれて二人の感情的な隔たりは大きくなっていきました。

女性が非正規としての収入しかなかったため、娘さんはアルバイトをしながら学費を貯めて関西の有名な私大に受かりました。そして大手重機メーカーへ就職。入社後もバリバリと働き、同期の中ではかなり早い出世を遂げ管理職になりました。

女性は娘と離れて住み込みの老人ホームの職員の職を得ました。そこで女性はいろいろな入居者の老人たちの最後を目にしました。何億円も財産を持ちながら親類が一人も会いに来ずに亡くなる人、かたや、それほどの恒産がなくとも孫や娘などがいつも会いにくる老人。

女性は思いました。

「わたしももうすぐ還暦。娘はどうしているのだろう」

娘さんは市内のマンションで一人暮らし。もう何年も連絡がありませんでした。

そして、あるとき、娘さんから連絡が来ました。いえ、厳密には「娘さんに関する」電話が女性にかかってきたのでした。

「○○医院の院長ですが、娘さんが、交通事故に遭って搬送されてきました。出血が多く重体です。ですので、大量の輸血と高度な手術を行うために300万円ほどかかります」

女性は頭が真っ白になりました。一人娘と一生会えなくなるのはどうしても避けたい。女性は院長を名乗る男性の指定した口座に、コツコツと貯めてきた貯金のほとんどであった300万円を振り込みました。

ところがそれは詐欺でした。

振り込んだ後、院長を名乗る男性の携帯に折り返し電話をかけてみましたがつながらず、院長を名乗る人間もその病院にはいなかったのです。

女性の被害は地元の新聞に大きく載りました。

それを読んだのが女性の娘さんでした。

「お母さん、わたしのために・・・・」

程なくして娘さんは女性の働く施設に現れ、女性にこう語りかけました。

「わたしのマンションで一緒に住みましょう。そこからでもここは通えるじゃない」

と。

女性は今、娘さんと一緒に住みながら施設でも働き、社会福祉士の資格取得を目指しているそうです。

確かに女性は300万円を失いました。詐欺を働いた犯人のやったことも決して許されるものではありません。

ですが、女性は「お金より何が大切なのか」「かたちのあるものとないもののどちらが大切なのか」をわかっていたから、これまでと違う「今」があるのではないでしょうか。

今回の大手家庭教師派遣会社の経営破綻ですが、「もう家庭教師はムリ。塾の無料講座にするわ」というご家庭もあれば、「先生との出会いは一生の縁。引き続き子どもの指導をお願いします」というご家庭もあります。

子どもの頭が最も柔らかく、適切な負荷をかければ大きく伸びるこの時期に、どういう教育を子どもに与えてあげるか。保護者としては大きく悩むところだと思います。

ちなみに、「もう家庭教師はムリ。塾の無料講座にするわ」というご家庭はいずれも有名なシリーズのマンションに住む経営者のご家庭でした。

また、少し話がそれますが、「良い先生で成績も上がったけど、自分の分のルーズリーフを持ってこなかったから」という理由で委託した家庭教師をクビにしたお母様もいました。「うちは1円も無駄にしたくないから」という理由で指導時にお子さんに説明する際のルーズリーフの費用を家庭教師に負担させていたようです。

そのご家庭は、母親は有名私大卒の外資系戦略コンサル、父親は旧帝大卒で都内の「住みたいスポットランキング」に出てくる駅の前のマンションに住んでおられましたが、塾での成績に関する母親のお嬢さんへの要求がきつく娘さんは「塾のテストの日になると心臓の動悸と、手のひらの発汗が止まらない」という症状に。結局、第1志望にも第2志望にも落ちるという結果になってしまいました。

少し話があちこちに行ってしまいましたが、「いろんなことはつながっている」というのは、人生に限らず子どもの教育でも同じなのだと思います。